親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第74回
文永九年冬の比、東山西の麓、鳥部野の北、大谷の墳墓をあらためて、 同麓より猶西、吉水の北の辺に、遺骨を堀渡して、仏閣をたて影像を安ず。 此の時に当りて、聖人相伝の宗義いよいよ興じ遺訓ますます盛りなること、 頗る在世の昔に超えたり。すべて門葉国郡に充満し、末流処々に遍布して幾千万ということをしらず。 其の稟教を重くして、彼の報謝を抽ずる輩、緇素・老少、面々あゆみを運びて、年々廟堂に詣す。 凡そ聖人在生の間、奇特これおおしといえども、羅縷に遑あらず。しかしながら、これを略するところなり。
−−−【御伝鈔 の最後、下巻第七段 】−−−
文永九(1272)年の冬、東山西の麓、鳥部野の北、大谷の地にあった親鸞聖人のお墓を改め、 同じ麓のなお西、吉水の地の北のほとりに遺骨を移し、お堂を建てて聖人の御遺影安置しました。 この時にから聖人の教えが一層広まり盛んとなり、 ご生前の昔をしのぐ盛況ぶりとなりました。信者は国中に満ちあふれ、念仏の教えはさらに隅々まで行き渡り、 念仏に帰依する者は幾千万人というありさまです。 その真実の教えを大切なものとして敬い、聖人への感謝の気持ちを押さえ切れない人々は、 出家者、在家、老若男女を問わず、年々みなこの親鸞聖人の廟堂に参詣に訪れるのでした。 おおよそ聖人の生涯には他にもさまざまな奇跡譚があって数え切れませんが、省略いたします。
−−−【現代語訳】−−−
○<住職のコメント>
いよいよ、後の本願寺につながる親鸞の廟堂の建立である。
関東の門弟の寄進で建てられ、京都にいた親鸞の娘、覚信尼は、
そのお守りをする「留守職(るすしき)」とされた。
その職が息子の覚恵、その息子の覚如と受け継がれて、後の本願寺に成るのだが当時、子孫には力がなく、
覚如の継承の時に、叔父の唯善との継承争いがあったことなどから、
「どうか留守職に成らせてもらいたい」という覚如の『留守職懇望状』が今に遺されている。
これは今もそうで、お寺は住職家の私物ではなく全ての門徒のものであり、住職はその留守職であるということだ。
現代で分かり易く言うと、住職は社長ということ。
会社は全ての株主のものであって、社長はそれを預かり運営する役職である。
本来そうであるものが、その後、本願寺が出来、八代目の孫、蓮如によって、広大な教団となり、
留守職が法主(ほっす)と成り、門徒の信心の沙汰に留まらず、社会的生活まで左右するようになってしまった。
大きな間違いではある。
教団とは矛盾的存在なのだ。教えが素晴らしければ多くの人が集まる、集まった人たちは大教団を形成し、
必然的に教えから離れていく。でもその教団が無ければ、教えが現代まで継承されたかは定かではない。
―――以上『顛倒』2014年9月号 No.369より―――
- 目次
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