親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第6回
養和元年(1181)年わずかに九歳にして、
親鸞は慈鎮和尚のもとで髪をそり範宴少納言公と名のったが、
やがて洛北比叡山にのぼり、天台の学場にはいった。
親鸞の弟に尋有、兼有、行兼、有意の四人があったが、その後いつの日か、親鸞と
同じく出家したと伝えられる。
インドの古典リグ・ヴェーダに「いまだ光を放たざるいと多くの曙光あり」といわ
れている。考えようによっては、人類に新鮮な光明を与えるということは途方もない
ことなのであるが、それはものを忠実に見るところから、つまり実験し観察することから
はじまる。実はこれは科学の方法であり、科学はそれによって人間に多くの新しい光明を
与えることができた。対象こそちがえ歴史の現実に対してもまた、そのことは必要な方法
である。
根本的に人類を救い、人類に光明を与える方法は、決して大衆運動といったようなもの
ではなくして、むしろ忠実な実験と観察でなくてはならない。仏教ではこれを止観といい、
また思惟といっている。
親鸞が九歳で出家し、学仏道にはいった心は、どのようなものであったかはわからない。
しかし幼ければ幼いほど、大人よりももっと正直でするどい実験と観察があったことは
想像にかたくない。人間には、幼いころ、息もとまらんばかりに見つめたというそのこと
によって、たとえ見つめた事実が断片的であっても、自分の一生がきまるということもある。
荒涼とした世間のみならず、父は隠栖し(その時にはすでに死去していたという説もある)、
四人の弟があってみれば、幼い親鸞とても食べるためにすら安閑として日を送るわけにはゆか
なかったであろう。その幼い純真無垢な胸の底から、死をもおそれない勇気がつきあげたと
しても何も不思議ではない。
―――東本願寺刊『親鸞読本』より ―――
○<住職のコメント>
物事の真相を顕かにするという、その方向では全く同じと言ってもいいかもしれません。 ただ手段は違っています。仏教は物事を深く見つめて思索して真相にせまります。 科学は実証的にせまります。大切なのは「真理在り」という、その信念なのです。
一例を挙げますと、仏教では「五蘊(ごうん)」とよばれる五つの要素で物事はできていると説きます。 これなどは、人間やいろんなものが元素でできているという科学の説に良く似ています。 ただ仏教の五蘊には精神的な要素も含まれています。 「ほうら違うじゃない」と言われるかもしれませんが、 最近は科学の粋である医学にも「心療内科」なんてものができてきて、 おもしろいものだなあと思うのです。
―――以上『顛倒』08年4月号 No.292より―――
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