親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第16回
大変に懇切に説かれましたので、法然上人が話しているあいだ、範宴はちょうど幼児が母親に会った時のように、
顔を伏せて人目も恥ずかしいほど泣きつづけていました。範宴は日頃抱いていた疑問が氷解して、
瞬時に他力の深い意味を会得して、凡夫のままで真実信心を決定して、
長年学んできた自力聖道の難行道をきっぱりと捨てて、
ただちに他力易行の大道に一向専修の行者となったのです。
範宴は法然上人に「世を遁れる者は、その名からも遁れると聞いています。まことにそのとおりだと思います。
今日から門弟となりましたので、師から名前を頂戴したいと思います」とお願いすると、
法然上人は「もっともなことだ」と言われて、名前を「綽空」とお授けになりました。
上人がおっしゃるには「大勢の門弟の中でも、このようにきっぱりと自力の執心を捨てて、ただちに他力の門に入り、
ついに浄土の真門を開こうとするその志は、ちょうど西河禅師(道綽)を偲ばせるものがあるので、
綽空と名付けました」とのことでした。綽空の「空」は当然、源空の「空」であります。
この年、源空上人は六十九歳、綽空は二十九歳でした。建仁元年三月十四日のことです。
―――[高僧和讃]より ―――
高僧和讃より
(訳)道綽(五六一〜六四四・中国の高僧)は、仏教に、自己の力に依る聖道門と阿弥陀佛の力におまかせする 浄土門があること発見され、末法の今に在っては、浄土の一門だけが、さとりの都に通づる入口であることを説かれました。
○<住職のコメント>
京都東山、吉水の念仏道場において、源空(法然上人)から、名前を頂く場面です。
その名は「綽空」すごい名前ではないでしょうか。
浄土門を立てられた中国の高僧「道綽」の一字と自分の名「源空」の一字を与える。
入門したての者に対して破格の名前です。
そこに法然上人の親鸞さまに対する、大きな評価、期待と同時にそれに値する親鸞様の内実が観てとれます。
これまで、ややもすると親鸞様のことを「低い位の貴族出身」であったか、
「比叡山でも低い身分」だったとする見方が強かったのです。
それは比叡山と記録に名前が出てこないとか、 妻の手紙にある「とうそう」を「堂僧」と読んだからという理由があるのですが、 私は、それに加えて「プロレタリア革命」という低い身分のものたちが 革命によって天下を握るということに対するあこがれのようなものが 「低い身分」という見方を強めていたように思うのです。 事実はそうではなく法然さまの評価に見られるように大きな内実とそれを育むだけの 身分的な背景を持った方だったと、思います。
それは比叡山と記録に名前が出てこないとか、 妻の手紙にある「とうそう」を「堂僧」と読んだからという理由があるのですが、 私は、それに加えて「プロレタリア革命」という低い身分のものたちが 革命によって天下を握るということに対するあこがれのようなものが 「低い身分」という見方を強めていたように思うのです。 事実はそうではなく法然さまの評価に見られるように大きな内実とそれを育むだけの 身分的な背景を持った方だったと、思います。
―――以上『顛倒』09年4月号 No.304より―――
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