親鸞聖人の生涯
~『顛倒』連載版~
親鸞は、平安時代末期の承安三年(1173)藤原氏の一末流、日野有範の子として生まれた。
有範は一時、官職についたこともあったが、当時すでに宇治にほど近い三室戸に隠栖していたと伝えられる。
私という人間が生まれたということは、私という人間のいとなみが、この世ではじまったことを意味する。そのように生まれるということが「はじまる」という意味であるならば、生まれない前はどういったらよいであろう。それは普通考えないわけであるが、はじまる前は、はじめのない世界であって、ある意味では無限の私といってよい。
それでは、私なるものは生まれてから死ぬ時まで、この無限の世界からはなれて浮遊する存在であろうか。私たちは、時としてそのような感情におそわれることがある。しかし冷静に考えてみれば、私という人間は、存在するかぎり無限をせおっているのであり、存在しなくなっても無限を離れることはありえないのである。
